浦賀和弘 『記憶の果て(上)』 (講談社文庫)

記憶の果て(上) (講談社文庫)記憶の果て(上) (講談社文庫)
(2014/03/14)
浦賀 和宏

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記憶の果て(下) (講談社文庫)記憶の果て(下) (講談社文庫)
(2014/03/14)
浦賀 和宏

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 ブログ記事上のジャンル分類を「ミステリー」にしましたが、この作品は単純にジャンル分け出来ない作品でした。
 ミステリーでもあり、SFでもあり、青春小説でもある。
 不思議な読後感をくれた作品です。
 ちなみにこの作者さんの作品はこれが初めてです。

評価(☆5が満点)
☆3

あらすじ
 高校を卒業し、大学入学を待つだけとなっていた安藤直樹(あんどうなおき)。
 ある日突然、彼の父親が死んだ。自殺だった。突然の父の死を受け入れられない直樹は、父の部屋にある真っ黒いパソコンを立ち上げた。そのディスプレイに現れたのは「裕子」(ゆうこ)と名乗る女性だった。彼女と次第に心を通わせていく直樹。
 しかし「裕子」の人格はプログラムなのではないかという疑いが次第に芽生える。「裕子」は何者なのか。彼女の正体を追っていくうちに、次第に明らかになっていく直樹自身の衝撃の出自。
 謎が謎を呼ぶ、「私」を巡る錯綜したミステリの幕が上がる。

感想
 第五回メフィスト賞受賞作とのことでした。
 以前出版されていた物の復刊。

 作品としては、始めに書いたように姿を掴ませない雲のような作品でした。
 かと言って、形作ることにすら失敗したダメ作品ではなく、諸要素が入り混じった、だけれども何かに結晶していない作品です。

 帯に「青春ミステリ」、「SF]、「青春小説」と様々な言葉で紹介されているのも納得です。どれか一つではなく、それらすべてがこの小説の形を成しているので。
 個人的には、青春小説というのが最もこの作品の性格を表しているのではないかと思います。

 青春時代、思春期の「自分とは何者か」を巡る、アイデンティティ形成を巡る様々な葛藤を、SFの要素、ミステリーの要素を用いて描き出したのではないかと。
 「自分とは何者か」って、言ってみれば永遠に解答を得ることができない最大の謎の一つと言えませんか?
 死ぬ時になってわかったり、死後他者から評価されたりするものですしね。

 こんな感じで書くと、高尚な作品か、痛い作品か、難解な作品のように思われるかもしれませんが、そんなことはまったく無く、読みやすい作品でした。
 難解な言葉を使うことは決してなく、平易な文章で作品は綴られていきます。
 
 一方で世にたくさんある青春小説のどれとも違う作品です。ミステリ仕立てでの自己の探索や、AI(人工知能Artificial Intelligence)がそこに関わって来るなど、物語の大枠を彩る道具が作品にた作品とは異なる魅力を作品に与えています。
 SFでAIが登場するとは言え、映画『A.I.』のような展開にならなくて良かったです。自己探索の結果が、あんなオチにならずによかったです。

 下巻の帯にある「タイトルの本当の意味に全身鳥肌」とあるのはオーバーな気がします(^_^;) 
 安藤シリーズは他にもある(7冊ある)ということなので、シリーズの他の刊も再刊してくれるとうれしいですね。


 もう一点、本書は『時の鳥籠 上・下』という作品とストーリー上、対をなしていますので、『時の鳥籠』を読む前にこちらを読まれることを強くおススメします。

 『時の鳥籠』は、本作と対をなす作品ですが、SFの要素とミステリーの要素が全面に強く打ち出されています。他方で青春小説の要素は遠景に退いています。
 こちらの主人公は、『記憶の果て』の主人公、安藤直樹が恋する相手、朝倉幸恵(あさくらさちえ)です。
 突然過去に飛ばされる、不思議な指示を受けるなど、厨二病をくすぐらせる要素がありますw とは言え、中身はライトノベルのようなものではなく、しっかりした青春ミステリー作品ですのでご安心を。
 また『記憶の果て』を補う作品でもあるので、『記憶の果て』を読み終えた後は『時の鳥籠』も読むことをおススメします。
という、両者は互いに相補的な性格の作品ですので、両者を読むことで一つの大きな物語を読み終えることができると思います。

時の鳥籠(上) (講談社文庫)時の鳥籠(上) (講談社文庫)
(2014/05/15)
浦賀 和宏

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時の鳥籠(下) (講談社文庫)時の鳥籠(下) (講談社文庫)
(2014/05/15)
浦賀 和宏

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