浦賀和宏 『彼女は存在しない』 (幻冬舎文庫)

彼女は存在しない (幻冬舎文庫)彼女は存在しない (幻冬舎文庫)
(2003/10)
浦賀 和宏

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 以前紹介した『記憶の果て』、『時の鳥籠』の作者さんの別作品です。
 上記に作品はとても不思議な作品でしたので、他の作品も読んでみようと購入。
 こちらは幻冬舎さんから出版されているものです。

評価(☆5が満点)
☆4

あらすじ
 平凡だけれど、恋人もいる幸せな生活を送っていた香奈子(かなこ)の日常は、ある日突然、恋人の貴治(たかはる)を殺されたことにより終わりを告げる。
 同じ時期、根本有希(ねもとゆうき)は、母親の死を契機に異常行動をとるようになった妹に不信感を募らせていた。そして根本は、妹に多重人格ではないかという疑いを向け始める。
 香奈子と根本の二人は、やがて事件を巡って結び付いていくことになる。事件の背後に見え隠れする女性、「アヤコ」は一体誰なのか。 

感想
 本作は、純粋に分かりやすく面白かったですw
 ミステリーとしてキチンと完成されているので、読んでいて面白かったです。
 決して前回紹介したものが悪いという訳ではなく、一ミステリー作品として素晴らしかったということです。あしからず。

 作品は、香奈子と根本有希という二人の視点を通して進んでいきます。
 というよりも、二人それぞれのエピソードを交互に繰り返すことで作品は進んでいきます。彼らのエピソードの核心にあるのは一つの事件と、ある一人の女性です。
 視点の変更のおかげで、別の角度からの考察が事件に加えられることになるのでより深く話に入れます。


 前回紹介した二作品、『記憶の果て』、『時の鳥籠』と同じく、この作品でも『「私」探し』がテーマにあるようです。
 デカルト的な「私」ですね。
 「我思う故に我あり」の「私」であり、自我ですね。アイデンティティー。
 アイデンティティーの危機に立ち向かう人間、というものを作者さんが好きなのかもしれませんね。上手く言語化できませんが、自分の周りの世界と自己の在り様、戦いみたいなものを書きたいのかもしれません。

 『記憶の果て』では、主人公は父親の死を契機に自己の出自の秘密に触れ、自己が揺らぎます。
 『時の鳥籠』でも、主人公の少女は閉じた時間と記憶喪失のなかで、自分に迷います。
 本作でも、根本の妹は多重人格という自己意識の危機にあります。

 こうした自分の足元がぐらぐら揺らいでいる人たちの格闘の話、という風に浦賀さんのこれらの作品はまとめられるかもしれません。
 他の作品は未読ですので、この作家さんの特徴としていいのかは疑問ですが、少なくともこれらの作品にはこうしたものがテーマとして見られます。


 ミステリー部分は、素直だったと思います。
 トリックについては、ここで触れることができまない類のものなのでご了承ください。
 無理やりな展開、ご都合主義的な推理といったものではなかったということだけ書かせてもらいます。
 タイトルです。 
 綾辻行人さんの『Another』などに通じます。


 久々に面白いミステリーでした。
 初版発売から10年後に人気が出たという不思議な作品だそうです。
 でも、人気になるだけの面白さを持っている作品であることは確かです。
 「もっと評価されるべき作品」タグが必要ですw
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上甲宣之『JC科学捜査官 雛菊こまり~』(『このミス』大賞シリーズ)

JC科学捜査官 雛菊こまりと JC科学捜査官 雛菊こまりと
(2014/05/22)
上甲 宣之

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 タイトルから途轍もない地雷臭がする作品www
 ヤバいですよね。『JC』とか書いてる時点でイタイ。レジに持っていくのをちゅうちょしました、私(^_^;)
 ではそんな地雷臭のする本作の感想です。

評価(☆5が満点)
☆2.5

あらすじ
 神戸市内の大学構内で、女性講師の刺殺死体が発見された。被害女性は、前日の夜、ネット上で有名なオカルト話「ひとりかくれんぼ」の再現実験を行っていた。
 時を同じくして、弱冠14才で、アメリカの大学でPh.D Candidateを取得した天才少女、雛菊こまり(ひなぎくこまり)が来日していた。なんと彼女はその才能を認められ、FBIの特別研究員として日本の科捜研との人材交流のために派遣されていたのだった。彼女の派遣先は、祖父も務める兵庫県警科学捜査研究所。
 こまりは、最先端の科学捜査手法を用いて派遣先の科捜研が関わったオカルト事件の謎に迫る。

感想
 タイトルが放つ禍々しさに反して、中身は正統派ミステリーでしたw
 テレ朝のドラマ『科捜研の女』とか『臨場』のような刑事ではなく、裏方の鑑識さんが主役の話でした。
 正確には、科捜研の職員なので、単純な鑑識とは違いますが。

 事件は先に書いたように「ひとりかくれんぼ」が絡み、オカルトじみた雰囲気を持たされています。
 この部分が、おもしろそうだと思って購入。
 オカルトじみた事件を最新科学は解き明かせるのか、がテーマになっています。

 作品の随所に最新(かどうかは管理人には判断が付きませんが)の捜査手法が、惜しげもなく登場します。
 ルミノール反応以外の血液飛沫検出方法、皮膚や衣類から指紋を検出する薬品などなど、豆知識が増えます。けっして、その知識を悪用して完全犯罪をしてやろうとか考えないでくださいw


 以上が興味深かかった点です。
 以下苦言。
 
 主人公がJC=「女子中学生」である必要が、最後までわかりませんでした。
 つまり、こまりちゃんが女子中学生である必要がまったくなかったということです。
 たとえば女子高生でも、大卒新人でも、ベテランでも構わないと思いましたし、そう言った作品の書かれ方になっています。
 女子中学生という設定のために、現実味が薄いです。主人公を若年の天才にしたかったのでしょうが、中学生の少女である必要性が特に感じられませんでした。

 単なる話題作りなんでしょうか?
 そうだとしたら非常に残念です。全体的にしっかりした面白いお話だったので、こんな所で自らケチを付ける必要がないです。
 そもそもそこまで捜査の天才のような描かれ方もされていませんでしたし…。化学の天才でしたが。

 もう一点。
 トリックについてはとても面白く読めたのですが、犯人の提示がいただけませんでした。
 最後の最後まで捜査の対象外に置いておいて、「実はこの人が犯人です」という犯人提示は個人的に好きではありません。
 『このミス』出身者なら、その辺も配慮して欲しかったです。
 犯人を探偵と一緒に推理していくというのも、ミステリーの楽しみ方の一つではないですか?


 事件自体は徹底して科学的な手法と、捜査によって解明されますので、オカルトじみた事件を期待しすぎないことが注意点です。
 「ひとりかくれんぼ」というオカルト話の使い方としては、そこそこでした。
 とは言え、見立てとかに使われるのではなく、あくまで作品の彩りの一つというところですのでご注意を。

 原作版「あとがき」に、「博士号をもつ」とこまりの紹介がありますが、本文内では「博士号候補生選抜試験に合格」とあるので、Ph.D Candidate(博士号候補生)が正しいのではないですか?
 少し気になりました。

 最新科学捜査手法に興味がある人には、レジに持っていく価値があるかもしれません。

浦賀和弘 『記憶の果て(上)』 (講談社文庫)

記憶の果て(上) (講談社文庫)記憶の果て(上) (講談社文庫)
(2014/03/14)
浦賀 和宏

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記憶の果て(下) (講談社文庫)記憶の果て(下) (講談社文庫)
(2014/03/14)
浦賀 和宏

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 ブログ記事上のジャンル分類を「ミステリー」にしましたが、この作品は単純にジャンル分け出来ない作品でした。
 ミステリーでもあり、SFでもあり、青春小説でもある。
 不思議な読後感をくれた作品です。
 ちなみにこの作者さんの作品はこれが初めてです。

評価(☆5が満点)
☆3

あらすじ
 高校を卒業し、大学入学を待つだけとなっていた安藤直樹(あんどうなおき)。
 ある日突然、彼の父親が死んだ。自殺だった。突然の父の死を受け入れられない直樹は、父の部屋にある真っ黒いパソコンを立ち上げた。そのディスプレイに現れたのは「裕子」(ゆうこ)と名乗る女性だった。彼女と次第に心を通わせていく直樹。
 しかし「裕子」の人格はプログラムなのではないかという疑いが次第に芽生える。「裕子」は何者なのか。彼女の正体を追っていくうちに、次第に明らかになっていく直樹自身の衝撃の出自。
 謎が謎を呼ぶ、「私」を巡る錯綜したミステリの幕が上がる。

感想
 第五回メフィスト賞受賞作とのことでした。
 以前出版されていた物の復刊。

 作品としては、始めに書いたように姿を掴ませない雲のような作品でした。
 かと言って、形作ることにすら失敗したダメ作品ではなく、諸要素が入り混じった、だけれども何かに結晶していない作品です。

 帯に「青春ミステリ」、「SF]、「青春小説」と様々な言葉で紹介されているのも納得です。どれか一つではなく、それらすべてがこの小説の形を成しているので。
 個人的には、青春小説というのが最もこの作品の性格を表しているのではないかと思います。

 青春時代、思春期の「自分とは何者か」を巡る、アイデンティティ形成を巡る様々な葛藤を、SFの要素、ミステリーの要素を用いて描き出したのではないかと。
 「自分とは何者か」って、言ってみれば永遠に解答を得ることができない最大の謎の一つと言えませんか?
 死ぬ時になってわかったり、死後他者から評価されたりするものですしね。

 こんな感じで書くと、高尚な作品か、痛い作品か、難解な作品のように思われるかもしれませんが、そんなことはまったく無く、読みやすい作品でした。
 難解な言葉を使うことは決してなく、平易な文章で作品は綴られていきます。
 
 一方で世にたくさんある青春小説のどれとも違う作品です。ミステリ仕立てでの自己の探索や、AI(人工知能Artificial Intelligence)がそこに関わって来るなど、物語の大枠を彩る道具が作品にた作品とは異なる魅力を作品に与えています。
 SFでAIが登場するとは言え、映画『A.I.』のような展開にならなくて良かったです。自己探索の結果が、あんなオチにならずによかったです。

 下巻の帯にある「タイトルの本当の意味に全身鳥肌」とあるのはオーバーな気がします(^_^;) 
 安藤シリーズは他にもある(7冊ある)ということなので、シリーズの他の刊も再刊してくれるとうれしいですね。


 もう一点、本書は『時の鳥籠 上・下』という作品とストーリー上、対をなしていますので、『時の鳥籠』を読む前にこちらを読まれることを強くおススメします。

 『時の鳥籠』は、本作と対をなす作品ですが、SFの要素とミステリーの要素が全面に強く打ち出されています。他方で青春小説の要素は遠景に退いています。
 こちらの主人公は、『記憶の果て』の主人公、安藤直樹が恋する相手、朝倉幸恵(あさくらさちえ)です。
 突然過去に飛ばされる、不思議な指示を受けるなど、厨二病をくすぐらせる要素がありますw とは言え、中身はライトノベルのようなものではなく、しっかりした青春ミステリー作品ですのでご安心を。
 また『記憶の果て』を補う作品でもあるので、『記憶の果て』を読み終えた後は『時の鳥籠』も読むことをおススメします。
という、両者は互いに相補的な性格の作品ですので、両者を読むことで一つの大きな物語を読み終えることができると思います。

時の鳥籠(上) (講談社文庫)時の鳥籠(上) (講談社文庫)
(2014/05/15)
浦賀 和宏

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時の鳥籠(下) (講談社文庫)時の鳥籠(下) (講談社文庫)
(2014/05/15)
浦賀 和宏

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大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 5』 (GA文庫)

【Amazon.co.jp限定】ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 5  書き下ろしSS付き4Pリーフレット付き (GA文庫)【Amazon.co.jp限定】ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 5 書き下ろしSS付き4Pリーフレット付き (GA文庫)
(2014/05/15)
大森 藤ノ

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※※ライトノベルです※※

評価(☆5が満点)
☆4

あらすじ(5巻)
 新しい仲間、鍛冶師のヴェルフを加えて、いよいよベルたちはダンジョン中層へと踏み出す。上層とは異なるモンスターたちの動きに、ベル、リリ、ヴェルフの三人は力を合わせて対応していく。息も合い始め、なんとかダンジョンの深部にも進めそうだと思ったその時、他パーティーによってモンスターの集団を擦り付けられてしまう。
 一転して窮地に陥り、魔物の巣窟であるダンジョン内で孤立してしまう。退くに引けない中、ベル達が下した決断は。
 一方、地上ではベルが予定時刻になってもホームに帰還しないことで不安になったベルの契約神ヘスティアが情報を集めて回っていた。ベル達がダンジョン内で孤立しているという情報を得たヘスティアは、旧知の神たちの協力も得て、ベル救出のためダンジョン内に突入する。
 
感想
 今回も安定の面白さでした。
 作品としては地底ダンジョン攻略をしている冒険者視点の物語ですので、RPGゲームが好きな方にはおススメの作品です。
 他にも『冒険』という言葉にピンときた方にもおススメです。

 魔法やモンスターが登場する異世界ファンタジーものとしては、他の同ジャンルの作品群とは異なり、ダンジョン攻略に主眼を据えた珍しいタイプのライトノベル作品です。
 他方、主人公のベル・クラネルの成長を見守っていくロードノベルの性質も持つ作品になります。
 ダンジョンをめぐって知り合う仲間、敵、友人。それらの人々との出会いを通じてベルくんがどの様に成長していくのかも見所です。


 神、スキル、魔法、モンスター、ダンジョン。
 こうした厨二心が刺激されるものが、これでもかと詰め込まれています。
 あと、タイトルにもあるように主人公のベルくんの恋(?)の行方も描かれていて、盛りだくさんです。
 アイズさんがだんだんデレ始めた気がするので、今後の展開に期待。
 頑張れ巨乳ロリ神、ヘスティア!w ライバルはたくさんいるぞ。

 上記の諸要素が詰め込まれているにもかかわらず、物語の展開などに無理がなく、綺麗にきちんとまとめられているという印象です。ごちゃごちゃしていません。
 テンポも悪くなく、スイスイ進んでいきます。
 話もRPGのような「お使い」要素はほとんどなく、ダンジョンに潜って自分を鍛えて、さらに深層に潜ることを目指す、ストイックな性格の主人公なので、「お使い要素」が嫌いな方でも大丈夫だと思います。

 またモンスターとの戦闘シーンの描写なども迫力があり、読ませてくれます。
 何をしているのか分からない戦闘シーンに陥ってはいないので、安心です。戦闘が売りの一つなのに戦闘シーンが何しているのかが分からない、とある作品よりも格段にわかりやすいですw


 唯一の難点として挙げるなら、巻毎の展開が似たり寄ったりになっていることでしょうか。
 ジャンプ系のストーリー展開と言ってもいいかもしれません。

 修行する⇒強くなる⇒さらに強いヤツが出る⇒死力を尽くして倒す⇒さらに強いヤツの登場⇒(以下無限ループw)

 こうした、冒険ものによくある展開が繰り返されます。

 とは言え、一巻の中で繰り返される訳ではないので、そこまで気になる目に付き方はしません。
 もちろんRPGや冒険ものと同じ手法を採って描かれている以上避けられないものではあるでしょうし。さらに言えば、深部に行くほど強力なモンスターが登場するという設定上、上記のパターンに陥ることは避けられないものでしょうしね。
 ですので、先には「難点」と書きましたが、難点とも呼べないようなものですので気にしなくてもいいかと思います。


 あと、ヤスダスズヒトさんの絵がいい感じにエロ可愛いですw
 『デュラララ』の表紙絵・挿絵、『夜桜カルテット』などで有名ですね。

 また外伝として、絵師にはいむらきよたかさんを迎えたスピンオフ作品も出版されています。こちらも作者さんは同じですが、ベルくんの憧れの相手、アイズ・ヴァレシュタインを主人公に据えた作品です。
 来月にはこのスピンオフ作品の第二弾も出版されるのでこちらもチェックですね。

【Amazon.co.jp限定】ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア2 書き下ろしSS付き4Pリーフレット付き (GA文庫)【Amazon.co.jp限定】ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか外伝 ソード・オラトリア2 書き下ろしSS付き4Pリーフレット付き (GA文庫)
(2014/06/13)
大森 藤ノ

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原作第一巻です。
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか (GA文庫)ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか (GA文庫)
(2013/01/16)
大森 藤ノ

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櫛木理宇 『ドリームダスト・モンスターズ』 (幻冬舎文庫)

ドリームダスト・モンスターズ (幻冬舎文庫)ドリームダスト・モンスターズ (幻冬舎文庫)
(2014/05/15)
櫛木 理宇

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 『ホーンテッド・キャンパス』の櫛木理宇さんの新シリーズということで購入しました。

評価(☆5が満点)
☆3

あらすじ
 悪夢に悩まされている女子高校生、石川晶水(いしかわあきみ)。数ヶ月前の事故と最近毎日のように見る悪夢からくるストレスで、自己の内に閉じこもりがちになり、晶水はクラス内で孤立していた。しかしそんな彼女に何故かまとわりついて来る、お調子者の同級生の山江壱(やまえいち)。壱は、晶水の冷たい態度にもめげず、彼女にアプローチを繰り返す。
 実は壱は、他人の夢に潜り、その人間の悩み(悪夢)の解決を手助けする「夢見」の能力を祖母から受け継いでいた。彼は晶水の悪夢を取り除くために、彼女の夢の中に潜り込む。
 壱が晶水の夢の中で見つけるものは…。

感想
 作品のジャンルは、前シリーズである『ホーンテッド・キャンパス』と同じくオカルトです。
 相違点は、舞台が大学から高校に変わったことぐらいですかね。なので、やっていることはほとんど同じでした。
 ただ、登場人物が高校生中心ということで、よりライトノベル寄りになっています。まぁもともとキャラクター小説ですので変わりはないかもですが(^_^;)

 「夢見」の能力は、あまり超常じみておらず、どちらかというと「夢診断」に近いものになっていました。ですので、オカルト方面によりすぎることもなく、地に足の着いたものになっています。映画『インセプション』のような、夢の中に入ってドンパチする、冒険するといったような展開はありませんので、その点には注意してください。

 『ホーンテッド・キャンパス』もそうですが、オカルトというよりも「少し不思議」話であり、『世にも奇妙な世界』のような作品になっています。オカルト的な部分と科学的というか、合理的思考のバランスのとり方が、相変わらず上手な作家さんだと思います。


 ただ、ここに問題もあるように思います。
 言ってしまえば新シリーズとは言え、やっていることは前シリーズと同じなので、新シリーズを刊行するなら『ホーンテッド・キャンパス』の続編を書いて欲しいというのが正直なところです。
 良かった点は、登場人物が違うところでしょうかw
 とはいえ各話それぞれのまとめ方、面白さといったものはきちんとしているので、面白くないということはありませんでしたので、ご安心を。

 もう一点。「甘酸っぱいオカルト青春ミステリー」とか「胸キュン100%保障」などと帯に書かれてたりしますが、シリーズ一巻目ということもあるのであまり期待しないよう。
 まだ始まったばかりですので、壱と晶水の関係も始まったばかりです。そもそも恋愛小説ではないので、ポンポン進展しませんしw 二人の恋愛関係はこれからに期待です。


 以上、管理人個人としては、『ホーンテッド・キャンパス』の方がおススメです。
 本作品も一つの作品として決して悪くはないのですが、先に述べた理由から前シリーズの方をおススメします。

新藤卓広 『秘密結社にご注意を』 (宝島社文庫)

秘密結社にご注意を (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)秘密結社にご注意を (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
(2014/04/04)
新藤 卓広

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 またまた「『このミス大賞』作品」です。

評価(☆5が満点)
☆3.5

あらすじ
 ストーカー容疑を掛けられ、勤めていた会社をクビにされ、以来ひきこもり生活をしていた青野恵介(あおのけいすけ)。そんな彼の元にある日突然、採用通知が届けられる。しかも採用先は「秘密結社」!
 出勤した恵介に与えられた仕事は、「晴れの日に傘をさして歩く」、「商店街を3時間歩き続ける」、「ゲーム店の遊技台を誰にも譲らずに遊び続ける」など意味不明、予想外の仕事ばかり。しかし一見無関係に見えたこれらの仕事は、やがて重なり初めて…。

感想
 ドタバタコメディの要素を取り入れたミステリー。
 登場人物たちの個性も立っていて、テンポ良く読ませてくれる作品でした。

 まったく無関係、かつ無意味に思える青野くんの仕事が、やがて交錯し、異なる姿を現していくようになる過程は見事でした。まぁ、かと言って、それぞれにより大きな視点からの意味付けがされていたことが明らかになるだけで、それぞれの仕事が見た目通りの無意味なものであることに変わりはないのですがw

 この点で、本作は京極夏彦『絡新婦の理』と同じタイプの事件でした。『攻殻機動隊S.A.C.』の事件の構造と同じでもありますね。「スタンド・アローン・コンプレックス」ですか。個々の独立した事象が描き出す、より複雑な構造の事象です。
 とは言え、これらの作品ほど大掛かりすぎる事件ではありませんでしたけど。


 「秘密結社」という設定も面白かったです。
 秘密結社とは言っても、ダン・ブラウンの小説に登場するフリーメイソンなどのような組織でもなく、仮面ライダーのショッカーのような悪の組織でもないですw
 単に秘密の組織だから、「秘密結社」と名乗っているようですw で、「秘密結社なんだから謎のボスから指令ぐらい来るわよ」ということらしいです。
 この何とも言えない脱力感というか、気軽さが良かったです。


 キャラクターの個性の強さ、話のテンポの良さ、ミステリーの仕掛け、それぞれのバランスが上手く採られていて、面白い作品です。本格派の推理小説ほど堅苦しくなく、かと言ってミステリー部分がおもしろくないかというとそういう訳でもなく、ミステリー部分も面白い。今後の作品が楽しみになる作家さんです。

 ただ、最後というか本来の目的として置かれていた事件とそれまでの事件とのバランスは、微妙な気がしました。事件の毛色が、それまでの事件とは違って、一気に現実味を持つというか、生臭いものになっている気がしました。
 例えるなら、『ダイ・ハード』を見ていたら結末が山口豊子作品(『大地の子』とか)になった感じです。
 似たような毛色の事件にしていた方が、良かったのではないかと思いました。全体の繋がりというか、まとまりの点で。


 本作の解説を書かれている大森望さんが書いていますが、シリーズ化に期待出来る作品でした。

乾くるみ 『セカンド・ラブ』 (文春文庫)

セカンド・ラブ (文春文庫)セカンド・ラブ (文春文庫)
(2012/05/10)
乾 くるみ

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 前回の更新で紹介した、乾くるみさんの『セカンド・ラブ』を読了したので、感想を書きます。

評価(☆5が満点)
☆2.5

あらすじ
 1983年元日、里谷正明(さとやまさあき)は、会社の先輩の紹介で内田春香(うちだはるか)と出会う。春香は、大学院に通う才女で、清楚なお嬢様だった。正明は、春香の清楚さ、知的さに惹かれ、やがて彼女と交際をするようになる。春香との交際は順調に進み、彼女の両親にも紹介され、結婚も視野に入るまでになる。
 しかしある日、正明は春香にそっくりな女性、美奈子と出会う。美奈子は春香とは正反対の、奔放で大胆な性格の女性だった。そして美奈子との出会いを切っ掛けに、正明の心は二人の女性の間で揺れ動き始める。
 春香と美奈子、二人の女性の間で揺れ動く正明の行きつく先とは。

感想
 え~と、ぶっちゃけ『セカンド・ラブ』は微妙でした(^_^;)
 そこまで悪いとか、面白くないとかではないのですが、前作の『イニシエーション・ラブ』には及ばないと思います。

 おそらくは、オチのインパクトが弱いからでしょう。
 前作のように「引っ張って、引っ張って、落とす」形式ではなく、あっさりしています。そのために最終盤でのインパクトに欠け、微妙な読後感になっています。
 前作のようなインパクトを期待していると肩透かしを食らいますので、気を付けてください。

 また少々胸糞悪い結論となりますので、その点も注意してください。
 前作は「怖い」という感想でしたが、今作は「クソ野郎」ですw


 べたべたの恋愛小説というものを殆ど読んだことがないのでわかりませんが、前作も今作も恋愛小説としては特に山なし谷なしの一本調子の作品なのではないでしょうか。
 普通に恋して、普通に交際してと、特に耳目を集める出来事も無いままに過ぎていくお話です。
 まぁ、『イニシエーション・ラブ』も『セカンド・ラブ』も、恋愛模様を描くことが主眼ではないので、個人的には気になりませんでしたが、恋愛小説として購入を検討するのは考えてみた方がいいかもしれません。あくまで本作は、「恋愛ミステリー」ということで見るべきでしょう。

 「二度読み必至」とのことですが、引っかかりの部分を確認するための読み返し、確認作業ということになると思うので、「二回も読まなければわからない」ということではありません。
 「難しそうだから遠慮したい」と思っている方、難しい本ではありませんよ。わかる人は読み返さずとも、分かるのではないでしょうか?

 少し趣向の変わったミステリー作品、として読まれるのが良いと思います。

乾くるみ 『イニシエーション・ラブ』 (文春文庫)

イニシエーション・ラブ (文春文庫)イニシエーション・ラブ (文春文庫)
(2007/04/10)
乾 くるみ

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 乾くるみさんの『イニシエーション・ラブ』です。積ん読状態だったのですが、持っていることを思い出して読みましたw
 乾さんの作品は、『蒼林堂書店』、『Jの神話』、『リピート』以来です。
 あ、本作のジャンルですが、タブでは「ミステリー」にしましたが、恋愛小説でもあります。


評価(☆5が満点)
☆4

あらすじ
 大学の友人に急に代打で呼び出された合コンの席で、鈴木夕樹(すずきゆうき)は成岡繭子(なるおかまゆこ)と出会う。鈴木はマユ(繭子)のことが最初から気になっていたものの、声を掛けることができずにいた。
 しかし後に再会できた時にマユの方から鈴木に声を掛けてきて、やがて二人は付き合うことに。大学生になって初めてできた彼女との、甘美でほろ苦い恋愛模様を描いた恋愛小説。

 と思いきや、最後から二行目のどんでん返しによって話が180°変貌する。二度読み必至の恋愛ミステリー。


感想
 「二度読み必至」、「だまされる」などの煽り文句が並んでいたので、騙されまい、二度読みすまいと読んでいたのですが、まんまと読み返しをさせられましたw

 とは言え、作品自体はまっとうな恋愛小説ですので、「ミステリーは苦手」な方にも十分楽しめます。反対にミステリーは好きだけれど、甘ったるい恋愛小説はちょっとという方には厳しいかもしれません。
 ただ作品全体に張り巡らされた、巧緻な伏線、仕掛け、ガジェットの数々には、感心させられます。解説の方が丁寧に解説されていますので、それを見ると一層、乾さんの施した仕掛けの丁寧さに驚かされます。 
 
 まぁ細かすぎて伝わらないメッセージが多数あったのも事実ですが…。
 難点はあれども、楽しめる名作だと思います。
 ただ、あまり帯の煽り文句に期待しているとアレかも知れませんので、その辺は自己責任でどうぞ。

 もう少しストーリーなどを書こうかと思いましたが、トリックに触れてしまいそうなので自重します(^_^;)
 この作品の面白さの半分ほどを占めているものなので、そこを先にばらしてしまうと面白さ半減です。ただのよくある恋愛小説に堕してしまいます。
 ですので、本書を読まれる際には絶対に最後のシーンから読まないでください!


 ちなみに管理人は男ですので、本書を読んだ後の感想は「怖~」でしたw 何が怖いかは読んでからのお楽しみです。
 女性が読んだら違う感想を持たれるのではないでしょうか?「女子力アップ」とか書いてある帯の場合もありましたしw
 これだけ性別によって感想が分れる作品も珍しいかもしれません。この部分に本書の特徴が詰め込まれているとも言えますね。

 あ、最後に。本作にも『Jの神話』程ではありませんが直接的なセックス描写がありますので苦手な方はご注意を。

 続編となる『セカンド・ラブ』は読書中です。

セカンド・ラブ (文春文庫)セカンド・ラブ (文春文庫)
(2012/05/10)
乾 くるみ

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三浦しをん『神去なあなあ日常』 (徳間文庫)

神去なあなあ日常 (徳間文庫)神去なあなあ日常 (徳間文庫)
(2012/09/07)
三浦しをん

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 三浦しをんさんの『神去なあなあ日常』です。
 昨日5月10日から実写映画『Wood Job』として公開されていますね。

評価(☆5が満点)
☆4

あらすじ
 平野勇気、18歳、高校3年生。間近に迫った高校を卒業したらフリーターで食べていこうかと考えている、どこにでもいそうな普通の高校生。
 しかし卒業式の日、担任に何故だら就職先として三重県での林業の現場を薦められ、というか就職を決められ、あれよあれよという間に勤務地である三重県の山奥に連れて行かれることに。連れていかれた神去村は、携帯も通じない山奥の小さな山村だった。
 自然豊かな山村でまきおこる、新人林業社員と個性豊かな人々が繰り広げる騒動記。

感想
 実は管理人、三浦しをんさんの作品はこれが初めてです。『舟を編む』も実は未読だったりします(^_^;)
 そんな初美浦さん作品でしたが、非常に楽しめました。
 林業をテーマにした職業小説でしたが、エンターテイメント性があり、小説として十二分に面白い作品でした。もちろん林業を知らずとも楽しめますよ~。
 
 もちろん職業小説ですので、「林業」という職業についても詳しくなれます。林業の現場の過酷さや、必要性、やりがいなどを知ることができます。もちろん理想ばかりではなく、安価な海外産材木に押されて衰退傾向にある日本林業の現状なども書かれています。
 緻密な職業描写に、三浦さんの丁寧な取材の跡をうかがうことができます。

 舞台となる「神去村(かむさりむら)」は、「なあなあ」精神が息づいたのんびりした村ですが、謎もたくさん。ちなみに「なあなあ」は、村の言葉で「ゆっくり行こう」とかいう意味の言葉ということになっています。沖縄の「なんくるないさ」みたいなものでしょうか。

 そして主人公の勇気が務めることになる、「中村林業株式会社」の面々も個性的です。
 社長であり、村の総代でもある中村精一(なかむらせいいち)。30代と若いのに重圧をものともしない人。
 社長の幼馴染でもあり、野生児、飯田与喜(いいだよき)。林業をするために生まれてきたような男。
 田辺巌(たなべいわお)、子どもの頃神隠しにあったというおじさん。
 小山三郎(こやまさぶろう)、74歳なのに現役の山師。

 主人公の勇気くんですが、最初は横浜出身という都会っ子らしく田舎である神去村を疎んじ、村の行事などを時代錯誤の非合理的なものとしてバカにしたりしています。
 本作は職業小説であるとともに、この勇気くんの成長小説でもあると言えます。
 林業という職業を通して自然に、村の人々に触れ、関わっていく中でどのような変化が勇気くんの中に起こっていくのかも楽しみの一つです。

 もう一つ、勇気くんと直紀さんとの恋模様も気になるところですw
 直紀さん、いわゆるクーデレ(クールだけど、デレると可愛い)人間なので、頑張って欲しいです。本作の続編となる、『神去なあなあ夜話』では多少の進展が見られますので、このまま頑張って欲しいものです。
 さらなる続編が見られるのかは分かりませんが、期待してます。


 彼らこの作品の登場人物を通して、自然と人間の関わり方、あり方みたいなものをもう一度立ち止まって考えてみるのもいいかもしれません。
 もちろん今ある生活、文明を棄てて自然に回帰しろなんてことは、言いませんし三浦さんも言わないでしょう。
 ですが、急がずに「なあなあ」の精神で立ち止まって考えることは有益かと思います。


 話は変わりますが、実写映画『Wood Job』の方も気になりますね。面白いといいですが、時間とお金に余裕があれば見に行こうかな。

神去なあなあ夜話神去なあなあ夜話
(2012/11/28)
三浦 しをん

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慶野由志『つくも神は青春をもてなさんと欲す』 (スーパーダッシュ文庫)

つくも神は青春をもてなさんと欲す (スーパーダッシュ文庫)つくも神は青春をもてなさんと欲す (スーパーダッシュ文庫)
(2013/11/22)
慶野 由志

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※※ライトノベルです
 長いタイトル系ラノベ。
 ジャンルは、癒し系でしたw

評価(☆5が満点)
☆4

あらすじ
 骨董品店に生まれて、物の修理が得意な主人公、物部惣一(もののべそういち)。彼はある日気になるクラスメイトでどこか陰のある少女、月野原鞘音(つきのはらさやね)が呪いにも似た力に悩まされていることを知る。
 彼女を救いたいけれどどうしたらいいのか悩んでいる時に、世界中を飛び回っている祖父から小包が届く。その小包の中には茶釜が入っており、「箱から出して」と言葉を話す。祖父から届けられた茶釜は、付喪神(つくもがみ)とよばれる存在だった。
 人かたをとった茶釜の精に「つくも」と名付けた惣一は、つくもと一緒に悩みを抱える鞘音を救うために動き出す。

感想
 ほんのりでき、楽しむこともできる良作でした。
 ヒロイン(?)のつくもは、本来の姿が茶釜ということもあり、茶道の心得「おもてなし」を基本にしています。おもてなしの心によって、周囲の人間や他の付喪神たちを癒して、救っていきます。
 またつくも自体の性格も裏表がなく、素直で、明るい性格なのもあって、作品全体もやさしい雰囲気になっています。

 主人公の惣一くんは、物の修理が得意です。というか「在るべきかたちになっていないものが気に入らない」性格が影響して、「在るべき姿に戻す」ために修理をしている感じです。常に修理道具を持ち歩いている変人。
 十月十日(とつきとおか)というふざけた名前の友人(男)は、端的に変人。授業中におっぱい談義を始めるくらいには変人。
 紙漉粋華(かみすきすいか)という少女は、ボクっ子で巫女。明るくてノリ良し。
 ヒロインの月野原鞘音は、不幸体質で影を背負った巨乳女子。

 とまぁ、主だった所のキャラを見てもこの通り、濃いですw
 これらのキャラが絡んでのドタバタ劇が基本なのですが、テンポもよく、読ませてくれます。ちょくちょくあるネタもちゃんとしていて、彼らのやり取りに笑わせてもらえます。


 付喪神にはそれぞれ元になった器物に応じて、「つくも能力」と呼ばれている力が設定されています。つくもは茶釜なので茶道のおもてなし精神、といった具合です。
 とはいえ、異能バトルの要素はほぼありません。そもそもバトルものではないので、購入の際はその辺を注意してください。

 登場する付喪神は元になった器物がみな有名どころですので、その点でも楽しめるかもしれません。ただそれらも、まさか数百年後に美少女キャラとして登場するとは思わなかったでしょうがw
 つくもは、誰もが聞いたことがある有名な茶釜です。
 二巻で登場の比良(ひら)も茶釜ですが、こちらも知る人ぞ知る茶釜ですw爆発です。
 この比良の元の器物こそ、本当に400年以上たってからツンデレツインテール娘にされるとは思ってもみなかったことでしょうwww
 彼らの元が何なのかを推理するのも楽しいかもしれません。

 難点というか、苦言が一点あります。
 時々ですが、挿絵のクオリティが少々残念な時があります。表紙絵が素晴らしいだけに、残念です。

 ちなみに二巻の表紙の子が、比良ちゃんです。
つくも神は青春をもてなさんと欲す 2 (集英社スーパーダッシュ文庫)つくも神は青春をもてなさんと欲す 2 (集英社スーパーダッシュ文庫)
(2014/03/25)
慶野 由志

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桜井光 『殺戮のマトリクスエッジ』 (ガガガ文庫)

殺戮のマトリクスエッジ (ガガガ文庫)殺戮のマトリクスエッジ (ガガガ文庫)
(2013/11/19)
桜井 光

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※ライトノベルです
 何の気なしに手に取ってみた作品。イラストは『東京レイブンズ』のすみ兵さんでした。そのせいかも…。

評価(☆5が満点)
☆3

あらすじ
 20XX年、東京湾上に建設された都市、トーキョー・ルルイエ。この都市には闇にまぎれて人間を襲い、電脳を食べる怪物「ホラー」が存在する。
 主人公、小城ソーマは「ホラー」を狩ることを仕事にしている「ライダー」だった。ソーマはその中でも特別なライダー、ソロのライダーだった。人間の身体能力を圧倒するホラーには、通常複数人でチームを組んで対処するのがセオリーの中、ソーマは誰とも組まずに仕事をこなしていた。
 いつもと同じホラー狩りの時、ソーマは不思議な少女と出会う。彼女はなぜかソーマを気に入り、懐いてきた。基本的な個人情報が公開されている都市内にあって、名前以外の情報が一切不明な謎の少女「ククリ」。彼女との出会いが、ソーマを都市内における陰謀に巻き込んでいく。

感想
 サイバーパンクだそうです。
 が、かと言って『攻殻機動隊』や『ブレードランナー』など程ぶっ飛んではいません。大人し目なサイバーパンク。
 電脳、サイボーグ、機械化、量子コンピューターなどなど基本的要素は揃っています。

 主人公、小城ソーマは、学校では目立たない学生、しかし本職は凄腕のハッカーであり戦士でもあるという、よくあるタイプの主人公です。まぁ、そんな主人公が謎めいた少女と出会ったらお話が始まらない訳がないという、そんな展開ですw
 「オレ強えー」とか「オレは実は…」みたいなキャラクター造詣が好きな人にはおススメできます。が、そうではない人には最早、食傷気味な主人公君でした。


 また話全体として、一巻目から続巻前提の話作りになっていて少々不親切です。そこかしこで伏線を張りつつも全く回収せず、「次巻以降に期待してください」とばかりに投げっぱなしです(ちなみに一応続巻である2巻も4月末に出てます)。
 こうした形のものは止めた方がいいと個人的には思うのですが…。 
 「試しに買ってみようかな」と思って購入する人間には不親切極まりないですし。話自体のまとまりも無くなると思うのですが。未完成の作品を見せられている気にもなりますし。大きな全体の物語の一部であったとしても、一巻一巻はそれぞれ独立した物語として成立させるべきでしょう。


 もう一点、サイバー感もパンク感もそこまでありません。
 高度な電子化の一方の退廃、都市とスラム、犯罪。こうした要素が薄いです。綺麗な都市上層部と地下層、表通りと裏通りみたいなものはありますが、都市全体の描写が少ないせいでサイバー感は少ないです。
 またネット空間でのクラッキングバトルの描写が残念でした。『攻殻』の電脳戦のイメージなのでしょうがショボイ。


 帯に某きのこさんが推薦文書いていて、「重厚、冷淡、しかれど可憐」とか書いてましたが、嘘ですw
 世界観の広がりは感じますが、重厚とは言い難い。「冷淡しかれど可憐」は何を指してるのか不明です。ククリか?

 
 『攻殻機動隊』のようなものを期待して購入されるのはよした方がいいと思います。

仙波ユウスケ 『ハロー・ワールド ―Hello World―』 (講談社ラノベ文庫)

ハロー・ワールド ――Hello World―― (講談社ラノベ文庫)ハロー・ワールド ――Hello World―― (講談社ラノベ文庫)
(2014/05/02)
仙波 ユウスケ

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 ライトノベルです。
 「講談社ライトノベル文庫新人賞大賞受賞」に乗せられて購入しました。

評価(☆5が満点)
☆2.5

あらすじ
 クリスマスイブの夜、バイト帰りの池野朋生(いけのともき)は自宅玄関前で行き倒れている少女を発見する。麗奈(れな)と名乗った彼女は、元居た場所に戻りたくないと言った。朋生は、仕方なく麗奈を自宅に泊めることにする。
 一般常識には疎いが、PCには詳しいなどなにか事情を抱えている麗奈。彼女と暮らし始めて数日後、麗奈の姉を名乗る人物が朋生の家を訪れる。麗奈の姉、純(じゅん)曰く、麗奈は巨大PMC「エイジス」の重要人物だという。
 「帰りたくない」という麗奈を守るため、朋生と麗奈、二人の逃避行が始まる。

感想
 そこそこ面白かったです。
 突拍子のない展開、無理やり付けた現実味のない設定、そのどちらもなく綺麗にまとまっていたと思います。

 一方で、非常に宙ぶらりんな読後感を得ました。例えるなら、5巻ぐらいの続きものの小説の3巻目だけを読まされたような感じです。なんだかよく分からない内に話だけは進んでいく…。

 完全には説明されない主人公たちの背後関係、主人公陣営でも「エイジス」陣営でもない第三者の存在。唐突に語られる「神」。こうした投げっぱなしの要素が多くあり、不安定な感じを受けます。
 まぁもちろん、この作品は続編を前提としたものだということでしょう。
 これで続編が出版されなかったら、最低ですが…。未完成のものを出版したという訳ですから。

 お話としては純粋なボーイミーツガールものかと思いきや、終盤ではなぜかガンアクションが。またPC関係の用語、プログラミング用語が出てくるなど、SFものの要素も多分に含んでいます。
 ガンアクション部分は不要ではないでしょうか…。必要性を全く感じませんでしたし、「エイジス」側の咬ませ犬が咬ませ犬らしく死んだだけの話でした。

 続編が出版されるなら続編を見なければ、この作品の評価を下すことはできませんが、現状ではこのような評価にならざるを得ないと思います。
 ぶっちゃけ、現状なら高橋慶太郎さんの『ヨルムンガンド』を見た方が良いです。ガンアクション、PMC、スパコンなど本作のほとんどの要素が高レベルでまとまって、詰まってます。

ヨルムンガンド 1 (サンデーGXコミックス)ヨルムンガンド 1 (サンデーGXコミックス)
(2006/11/17)
高橋 慶太郎

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ヨルムンガンド コミック 1-11巻 セット (サンデーGXコミックス)ヨルムンガンド コミック 1-11巻 セット (サンデーGXコミックス)
(2012/04/26)
高橋 慶太郎

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麻耶雄嵩 『隻眼の少女 』(文春文庫)

隻眼の少女 (文春文庫)隻眼の少女 (文春文庫)
(2013/03/08)
麻耶 雄嵩

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 麻耶雄嵩さんの『隻眼の少女』を読んだので感想を書きます。
 ミステリーです。

評価(☆5が満点)
☆3

あらすじ
 ふらりと訪れた、とある山奥の山村で種田静馬(たねだしずま)は殺人事件に巻き込まれる。しかも静馬は殺人事件の容疑者として警察に疑われることに。窮地に陥った彼を見事な推理で救ったのは、隻眼の少女御陵みかげ(みささぎみかげ)だった。
 彼女は「探偵」を名乗り、殺人事件の調査を買って出る。みかげの推理で窮地から救われた静馬は、みかげとともに事件の調査を開始しする。犠牲を払いつつも、二人は何とか殺人事件の解決にこぎつける。しかしその18年後、同じ村で再び同様の惨劇が幕を上げる…。

感想
 「日本推理作家協会賞、本格ミステリ大賞のダブル受賞!」の煽りに惹かれて購入しました。
 が、そこまで面白い作品だとは思えませんでした。
 もちろん作品内では様々な技巧が凝らされており、作品の構成もきちんとしています。特に作品内に見られる、「対象関係」というか「鏡像関係」は独特の雰囲気を作品にもたらしていると思います。

 こうした構成面、技巧面はさすがだと思うのですが、いかんせんトリックがいただけませんでした。このトリックは、「禁じ手」でしょう…。
 探偵である御陵みかげの推理は、基本、論理的で的を得た推理手法を採っているにも関わらず、最後の最後で梯子を外された気分にさせられます。

 同様に犯人の犯行動機、犯行理由が突拍子もなく感じます。意味がわからない。
 そもそも論として、犯人の犯行動機を達成するために採った方法が不要だろうという感じがします。もっと簡単に、もっと容易に目的が達成できるはずです。わざわざ「ABC」的犯行を実行する必要性が皆無です。
 第一の事件はまだしも、第二の事件に関してはそもそもの犯行動機がおかしいです。「死んでいると思っていたけど死んでいなかったから自分が殺す」。どういうことでしょう???

 本書の「解説」では、「横溝正史の『獄門島』が連想される」と書かれていますが、殺人事件の様から見れば、どちらかといえばクリスティの『ABC殺人事件』の方が近しいのではないでしょうか?
 旧家の因習、娘殺しといった諸要素は『獄門島』に近いでしょうが。

 あともう一点、苦言を。
 本書では物語のメイン舞台となる、琴折(ことさき)家の屋敷の平面図が掲載されていません。事件はこの屋敷内ならびに周辺の敷地内で起こるのですが、それぞれの現場同士の位置関係が非常に把握し難くなっています。
 せめて琴折家の屋敷の平面図は掲載していて欲しかったところです。


 読んで損になるような作品ではないと思いますが、あまり期待されていると肩透かしを食うかもしれません。
プロフィール

ゆーいち

Author:ゆーいち
ゆーいちです。

このブログでは特にジャンルを絞らず、自分が読んだ作品の感想を書いていこうと思います。
記事中の作品についての評価は、おススメ度と見てください。

出来るだけ週一程度のペースで更新していきたいと思います。

よろしくお願いいますm(- -)m

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