飛浩隆 『グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉』 (ハヤカワ文庫JA)

グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
(2006/09)
飛 浩隆

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評価(☆5が満点)
☆4

あらすじ
 仮想リゾート《数値海岸》(コスタ・デル・ヌメロ)の一区画、「夏の区界」。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が絶えてから1000年が経過していた。取り残されたAIたちは、人間不在の中、永遠の夏を過ごしていた。
 しかし、その「永遠」は突如終焉の時を迎える。謎の存在「蜘蛛」の大群が、街のすべてを、オブジェクトやAIの区別なく、無化し始めたのだった。僅かに残ったAIたちの、生き残りを掛けた絶望の一夜の攻防戦が幕を上げる…。

感想
先に断っておきますが、この評価はシリーズ二作目である『ラギット・ガール』と合わせての評価です
 単体としてはそこまで面白いとは思えなかったのですが、二作目を読んで評価が上がりました。これ単体だと☆3ぐらいですかね。


 作品としては、綺麗でした。 無駄が無いとでも言えばいいんでしょうか。
 夏のリゾート地を彷彿とさせる「夏の区界」という場所が喚起するイメージが綺麗だという部分もありますが、文体も綺麗です。

 が、無駄というか、本筋にとって余計な部分もそぎ落とし過ぎているような気もします(この点は、作者もあとがきで触れていましたが)。
 それもあり、話の進行が若干唐突過ぎるきらいがあります。 何がどうしてそうなったかの推測ができないままに、話が進んでいる感じが時折しました。
 そのあたりは、『ラギット・ガール』所収の話を読んで補完ができましたので、その点もあって二作合わせての評価とさせてもらいました。

 また、作中で若干のグロテスクな描写がありますので、苦手な方はご注意を。
 作品を読まれればわかるのですが、決して無意味な描写、悪趣味性によるシーンなどではありません。 この部分を指摘して批判されている感想を見ましたが、批判するほどではないように思えました。



 本書の続編となる『ラギット・ガール』では、「大途絶」と呼ばれる人間の来訪の途絶以前の、《数値海岸》形成に至る物語3編と、本書の重要キャラクター二人の前日譚2編が収められています。

 なかでも、タイトルにもなっている「ラギット・ガール」は、《数値海岸》の開発秘話に関するもので、本書を補完するという点でも面白いです。
 話そのものも面白いです。「2014オールタイムベストSF」の短編部門3位になっているのも納得。
 本書では語られなかった、この世界の裏側、SF的な考察も描かれています。
 ただ、個人的には「ジェンダーSF」とか言われていることに違和感が…。 まあ、それは置いておいても楽しめます。


 繰り返しで失礼しますが、『グラン・バカンス』と『ラギット・ガール』、この二作は合わせて読むことをおススメします。

ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)
(2010/02/10)
飛 浩隆

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長谷敏司 『あなたのための物語』 (ハヤカワ文庫JA)

あなたのための物語 (ハヤカワ文庫JA)あなたのための物語 (ハヤカワ文庫JA)
(2011/06/10)
長谷 敏司

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評価(☆5が満点)
☆4

あらすじ
 西暦2083年。人工神経制御言語・ITPの開発者サマンサは、ITPテキストで記述される仮想人格『wanna be』を用いた実験に心血を注いでいた。『wanna be』に小説を執筆させることによって、使用者が創造性をも兼ね備えることが可能であるということの証明を試みていた。
 そんな折、サマンサの余命があと半年であることが判明する。彼女はのこされた日々をITP商品化の最大の壁である「平板化問題」の解決に捧げようと決心する。一方で、『wanna be』は徐々に彼女のための物語を綴り始める…。

感想
 不思議な感じの作品でした。

 全体的にこれでもかと言わんばかりにSF要素がちりばめられ、作品を彩っているのに、作品はSF作品というよりも、純文学作品のような雰囲気を持っていました。
 死に向かう人間の心的葛藤、人間と機械の相克。
 そうしたあれやこれやが詰め込まれた作品のように思いました。 
 SFでありながら、どこまでも人間の存在を描いた作品ではないかと思います。


 AI人工人格の作成など、SFとしても面白いテーマを扱っていて、そちらの面でも楽しめました。 科学的考察というか、理論的な部分でもきちんと掘り下げられていて、作品内での議論も楽しめます。

 また、死に向かっていくサマンサの心理描写などもしっかり書かれていて、そちらの面でも良い作品でした。
 着実にそして不可避的に死へと向かっていくサマンサの、死への恐怖周囲との軋轢気付き、そうした部分もきちんと描写されています。
 タイトルの『あなたのための物語』というのも、この辺に理由があるのでしょう。
 作者さんが逃げていないです。 
  


 長谷さんの他の作品にも手を出して見ようかなと思えた作品でした。
 あらすじを見る限りだと、『Beatless』(だったかな?)がおもしろそうでしたが、近くの書店に見当たらぬ…。 ライトノベル作品の方は、個人的には好きになれなかったんだけど…。

牧野修 『傀儡后』 (ハヤカワJA)

傀儡后 (ハヤカワJA)傀儡后 (ハヤカワJA)
(2005/03/24)
牧野 修

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評価(☆5が満点)
☆3

あらすじ
 20年前の破滅的な隕石落下により、大阪は異形の街と化した。落下地点から半径6キロは、現在も危険指定地域とされた。 現在この地域は、五感で世界と融合するというドラッグ「ネイッド・スキン」、全身の皮膚がゼリー化するという謎の奇病「麗腐病」の中心地として、破滅の予兆をはらんだ都市を形成していた。
 人類社会崩壊の予兆の中、変容する人の意識と世界が醜悪かつ美麗に描かれる。

感想
 崩壊しつつある社会を舞台にした作品ということで、退廃的な雰囲気を漂わせた、そう言う意味では実に「SF的」な作品でした。
 とは言え、『ニューロマンサー』の冒頭や『ブレイドランナー』の社会のような感じではありません。あの、「なんか違う感じ」満載の日本文化風ではありません。
 あくまで現代日本(大阪)の延長でしかありません。 そのいみでSFに付きものの「未来感」はそれほどありません。


 作品としては「服」、「着る」ということがキーとなっており、なかなか異色の作品でした。 

 また割とグロテスクシーンが出てきますので、苦手な方は気を付けられた方が良いと思います。 程度としてはそこまでではないとは思いますが、ちょっと多いかもしれません。

 まぁ、それらを含めても作品の雰囲気としてはわりと好きな方だったのですが、ストーリーがイマイチ楽しめませんでした。最後の最後で明かされたあの真相は、好き嫌いが分かれそうですね。 私は後者でしたが。
 まったく関係ないのに、なんとなく『黄泉返り』(原作小説版)を連想しましたw 
 ※※本作では、人間は甦ったりしません。作風も全く違います※※


 上記のように「服」・「着る」といったことに拘った小説ということで、他のSF小説とは一線を画した感があります。
 お話としては面白いのでしょうが、この差異の部分を受け入れられるかどうかがこの小説を楽しめるかどうかの分岐点になるんではないでしょうか。

 いみじくも巻末の解説にありますが、「(この作品は)(中略)…宇宙論SFであり、哲学SFであり、言語論SFであり、小説論であり、単なるフェティシズム小説ですらある」(P.536)とあるように、単純なSFのイメージに納まらないものでした。

 ですので、「普通の」SFをお望みの方には向かないかもしれません。

吉上亮 『PSYCHO-PASS GENESIS 1』

PSYCHO-PASS GENESIS 1 (ハヤカワ文庫 JA ヨ 4-6)PSYCHO-PASS GENESIS 1 (ハヤカワ文庫 JA ヨ 4-6)
(2015/03/06)
吉上亮、サイコパス製作委員会 他

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評価(☆5が満点)
☆3

あらすじ
 西暦2080年、警視庁の新人刑事・征陸智己(まさおか・ともみ)は、先輩刑事・八尋和爾(やひろ・かずじ)が率いる特命捜査対策室に配属される。そこは数多の未解決事件を追及する部署だったが、背景には包括的生涯福祉支援システム〈シビュラシステム〉により覇権を握ろうとする厚生省への警視庁の最後の抵抗があった。
 激しく変動する社会にあって、体制に翻弄されながらも正義の在り処を追い求めていく征陸だったが……。

感想
 若かりし日の「とっつぁん」こと征陸の過去のエピソードを軸に、『シビュラシステム』が社会を変革していくその過渡期を描いた作品でした。

 征陸のおやっさんの過去がメインですので、他のいつものメンバーは登場しません。
 例外として、子どもの頃のギノ先生がちょろっと登場していますが。

 
 タイトルが『Phycho-Pass Genesis』とあったので、もっと『シビュラシステム』の根本に迫るというか、現在の世界が出来上がるまでの話を期待していたので少々残念。
 個人的には、システムの成立の謎というか、裏側を事件として追うようなお話を期待していました。
 東金財団とか絶対絡んでるだろうし、アニメ版の補完にもなりそうですが、いかが?

 とは言え、若かりし日のとっつぁんのエピソードはそれとして興味があったので良しとしますw
 ギノ先生があれだけ毛嫌いしていたので、どんだけ仕事人間だったのかと思いましたが、別に仕事人間と言う訳でもなかったですね。 むしろ良い親父でした。
 まぁ、ギノ先生が問題視してたのは潜在犯に偏見が強かった時代に「潜在犯になった元刑事」と言う部分なんでしょうけどね。


 てか、先輩刑事として登場した八尋さんもいい味出してました。
 本編に出て来てても良かったんじゃないかと個人的には思います。色々な意味で。

 ストーリーとしては、まだ始まったところと言った感じでしょうか。
 とっつぁんの「潜在犯堕ち」に関係するエピソードとしてまとめることも出来そうですが、作品世界全体の「はじまり」はまだまだ描かれていないと思いますので、次巻以降に期待したいところです。

ヒュー・ハウィー 『ウール』 (角川文庫)

ウール 上 (角川文庫)ウール 上 (角川文庫)
(2013/09/25)
ヒュー・ハウイー

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評価(☆5が満点)
☆3.5

あらすじ
 終焉を迎えた後の世界、人類は地下深く、144階建ての「サイロ」と呼ばれる建物で、限りのある資源を利用しながら生き延びていた。
 サイロのカフェテリアのスクリーンに映し出されるのは荒涼とした外の世界のみ。外に出ることができるのは、レンズを磨くための「清掃」の時だけ。しかし「清掃」に出かけたものが生きて戻ることはなかった……機会工のジュリエットが「清掃」を科される時までは。
以上は上巻のあらすじです

感想
 帯やらなんやらで煽られている程ではなかったかな、というのが素直な感想です。
 ストーリーや世界観はしっかり練られていて、読み応えはあるのですが、いかんせん良くある話という感じを最後まで払拭できませんでした。
 「文明崩壊後の世界もの」と言って皆さんがぱっとイメージするもの、それ以上のものではなかったかと思います。


 とはいえ、サイロと呼ばれている人類の居住空間といった舞台設定、その中で営まれている人類の生き残りの生活感など見どころは多々あるかと思います。
 サイロという閉鎖空間内での生活が持たざるを得ない閉塞感、そういったものを作者さんはきちんと描いていて、それがこの作品の魅力の一つになっています。

 閉鎖空間内の閉塞感からの解放。
 そうしたカタルシスがこの作品の大きなテーマになっているようでした。
 閉鎖空間内のはなしなのに、解放的な性格の楽天的な人間がわんさかいたら興ざめですもんねw


 さて、この作品ですが、実は三部作となっているそうです。
 現状は第二部の『シフト』までが角川文庫から刊行されているのかな? 
 第二部は、時系列的には『ウール』以前、人類がサイロを作りその中に閉じこもることになるまでを描いたものだそうです。三部は、『ウール』に続く時系列の作品になるのだとか。

 二部以降はどうしようかな?
 個人的には、あまり期待ができないので保留しています(^_^;)
 作品世界の謎自体も予測通りでしたし、これ以上の期待は…。


 ところで、「サイロ」のイメージがFF8の砂漠の刑務所と被ったのは私だけでしょうか?
 ちなみにFF8の砂漠の刑務所は、ドリル型の3つの塔が連結したような建物でした。そして、必要がある時にはドリルのように回転して地下に埋まるというものです。
 閉鎖空間で、地下に埋まっているとか似ていませんか?

ウール 下 (角川文庫)ウール 下 (角川文庫)
(2013/09/25)
ヒュー・ハウイー

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